2011年6月9日木曜日

『あけがたにくる人よ』永瀬清子詩集

詩集、というものを何か持っていますか?
詩というと、小説より短くて読みやすそうだけれど
なんとなく格式高い雰囲気に圧されて手を出しにくい、
そんな印象があるような気がします。

ちょうど季節が春から夏へと移りかけている今、
変わりやすい空模様や木々の葉色を見ていると、
気分が穏やかになったり、不安を煽られたりとあらゆる感情が巻きおこります。
そんなとき心に浮かんだ気持ちを言葉にあらわすのってとても難しい。
どこか陳腐な表現になってしまうのもなかなか恥ずかしい。
ならば、詩集を開いてみてはいかがでしょう。

詩は、言葉が少ない分だけひとつひとつに込められた意味が重く、
選び抜かれた単語とそれをつなぐひらがなの流れが
リズミカルであったり美しく繊細であったり。
そんな風に詠まれた素晴らしい詩が世の中には数多くありますね。
少し手をのばせば、きっとあなたが探していた言葉をつかって
今の心模様をうまく言い当ててくれる詩に出会えるはず。

さて、本日紹介する文庫は、女の子にはぜひ読んでもらいたい
詩人・永瀬清子の詩集です。
明治時代に生まれた彼女は弱冠19歳にして詩の道を志し、
結婚し農婦となり、母となり祖母となり、
女の一生を力強く自分らしく生き抜いて
82歳で他界するまでずっと詩を詠み続けます。

「彗星的な愛人」など初期の作品を読むと、
文体のみずみずしさと目のつけどころの良さ
言葉の示す深い意味の重みが心にのしかかってくるようです。
特に恋愛詩は、厳選された美しく儚い言葉たちによって
そこはかとなく漂う哀しみと切なさに惹かれるものがあります。
さらに驚くべきは、晩年詠まれた詩には少女の心が変わらず在るうえに、
年を重ねてきたが故に見えたものが巧みに表現されていて
二十代の女の子が読んでも心揺り動かされることでしょう。
「だましてください言葉優しく」「女のうたえる」「あけがたにくる人よ」
この三篇は特におすすめしたい作品ですので、ぜひ。

心のうちのあれこれを言葉にあらわす必要などないのかもしれません。
でも、素晴らしい詩に触れると心安らぐだけでなく目も豊かになり
いつもとは少し違う風に季節を楽しめる、そんな気がします。
梅雨の合間のよく晴れた日、散歩のお供には詩集を一冊。



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